『三世代カオス株式会社』1話

2026年05月26日

『三世代カオス株式会社』

第一話「LINEか電話か、それが問題だ」

 

その日の朝、不動産会社「三世代ハウジング株式会社」の営業部には、いつも通りの穏やかな時間が流れていた。

……はずだった。

鈴木ゴンゾウ部長(60)が、おもむろに立ち上がった。

ゴンゾウ「アコム、昨日の田村さん(新規顧客)に連絡取ったか?」

アコム「はい。LINEで物件資料送りました」

ゴンゾウ「……LINE?」

部長の眉間に、昭和が降り積もっていく。

ゴンゾウ「お客様に連絡するときは電話だろうが。声でちゃんと話してナンボだろ、営業は」

アコム「でも田村さん、お問い合わせフォームに『連絡はLINE希望』って書いてありましたよ?」

ゴンゾウ「……そういうもんか」

アコム「そういうもんです」

一件落着——と思われた。

しかしそこへ、春日くん(22)がデスクから顔を上げた。

春日「あの、LINEも古くないですか? 田村さん、たぶん30代前半ですよね。だったらDMのほうがよくないですか。X(旧Twitter)か、インスタか」

アコムの手が止まった。

アコム「……いや、でも、お問い合わせフォームにLINEって書いてあったんだよ」

春日「でもLINEって既読スルーされたとき気まずくないですか? DMなら未読のままフォロー外せばいいし」

アコム「お客様が『フォロー外す』前提で話してる???」

そこへゴンゾウ部長が再び参戦した。

ゴンゾウ「つうかDMって何だ。ダイレクトメール? ポストに入れるやつか?」

春日「違います。SNSの——」

ゴンゾウ「SNSって何だ」

春日「ソーシャル……ネットワーク……サービス」

ゴンゾウ「ああ、ミクシィか」

春日「……(無言)」

沈黙。

アコムは深呼吸した。自分がいま、昭和と令和の間に立つ唯一の通訳者であることを、静かに悟った。

アコム「……整理しましょう。お客様がLINEを希望しているので、LINEで連絡します。以上です」

ゴンゾウ「やっぱ電話がいいと思うけどな」

春日「電話はないっすよ、アポなし電話って令和では完全にアウトなんで」

ゴンゾウ「アウト……? 俺の時代は電話できる男がモテたんだぞ」

春日「令和では電話してくる男が一番引かれます」

ゴンゾウ「……そうか」

ゴンゾウ部長は、しばらく虚空を見つめた。何かが、音もなく崩れていった。

アコムは静かに自分のパソコンに向き直り、田村さんへのLINEの文面を打ち始めた。

そして一言、誰にも聞こえないくらいの声で、呟いた。

アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」

※田村さんには無事LINEが届き、翌日に内覧の予約が入った。ゴンゾウ部長は今もアポなし電話がなぜいけないのか理解していない。

── 第一話 了 ──

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