第八話「褒め方がわからない」
2026年07月14日
三世代カオス株式会社
第八話「褒め方がわからない」
登場人物:鈴木ゴンゾウ(60歳・部長)/武富士アコム(34歳)/春日くん(22歳)
その日、春日くんが大型契約を取った。
新規顧客・田辺さんへの提案が通り、成約。営業部始まって以来の新人最速記録だった。
ゴンゾウは、心から嬉しかった。
そして——褒めようとした。
ゴンゾウ「春日! よくやった! お前、見どころあるな! 俺の若い頃に似てる!」
春日くんが、微妙な顔をした。
春日「……ありがとうございます」
声が、明らかに平坦だった。
ゴンゾウは気づかず続けた。
ゴンゾウ「見ろ、努力すれば結果は出るもんだ! 最初はどうなることかと思ったがな、ハハハ!」
春日「……(最初はどうなることかと思った?)」
春日くんの目が、わずかに曇った。
アコムがその変化を見逃さなかった。
ゴンゾウはさらに続けた。
ゴンゾウ「今夜また飲みに行くか! こういうときは騒がないとな!」
春日「……あ、今日は予定があるので」
ゴンゾウ「推しか?」
春日「……まあ」
ゴンゾウ「仕方ない。じゃあ明日、みんなで祝うぞ」
ゴンゾウが去った後、アコムは春日くんのデスクに近づいた。
アコム「……ちょっといい?」
春日「はい」
アコム「部長の褒め方、刺さった?」
春日「……『最初はどうなることかと思った』って、要は最初は期待してなかったってことですよね」
アコム「部長はそういう意味で言ってないと思う。昭和の褒め方って、一回下げてから上げるスタイルなんだよ」
春日「下げる必要あります?」
アコム「ない。でも部長は褒めてるつもりなんだよ、本当に」
春日「……そうですか」
アコムは少し悩んで、ゴンゾウを呼び止めた。
アコム「部長、少しいいですか」
ゴンゾウ「なんだ」
アコム「さっきの春日くんへの言葉なんですが……令和の子は、褒めるときに一回下げられると、下げた部分だけ残ることがあって」
ゴンゾウ「……そうなのか」
アコム「褒めるなら、ストレートに褒めたほうが伝わります」
ゴンゾウ「ストレートに……」
ゴンゾウは少し考えた。それからまた春日くんのデスクへ歩いた。
春日くんが顔を上げた。
ゴンゾウ「春日」
春日「はい」
ゴンゾウ「……よくやった。本当に、よくやった」
それだけだった。
余計な一言は、なかった。
春日くんが、今度は本当の顔で言った。
春日「……ありがとうございます」
ゴンゾウが、照れくさそうに頭を掻いて去っていった。
アコムはそれを見て、また胸の中でガッツポーズをした。
今日は、いい仕事ができた。
——そう思った瞬間、ゴンゾウが振り返った。
ゴンゾウ「アコム、お前も褒めてやろうか。お前は……最初から見どころがあった。俺の若い頃に似てる」
アコム「……(それ、さっき直したやつでは)」
ゴンゾウの学習は、まだ途上だった。
アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」
※後日、ゴンゾウはChatGPTに「部下の褒め方を教えてください」と相談した。返ってきたアドバイスは「具体的な行動を褒めましょう」だった。ゴンゾウは「ChatGPTはアコムより教え方が上手い」と言った。アコムは複雑な顔をした。
── 第八話 了 ──
