第十話「テレワークという戦場」
2026年07月28日
三世代カオス株式会社
第十話「テレワークという戦場」
登場人物:鈴木ゴンゾウ(60歳・部長)/武富士アコム(34歳)/春日くん(22歳)
その日、会社は初めてテレワークを導入した。
きっかけは春日くんの提案書だった。A4三枚、論拠は完璧、コスト試算まで添付されていた。ゴンゾウは渋々承認した。アコムが根回しした。
午前九時。Zoomの会議が始まる予定だった。
アコムと春日くんは定刻ちょうどに入室した。
ゴンゾウは、いなかった。
春日「部長、まだっすね」
アコム「……ちょっと待とう」
五分後、ゴンゾウが入室した。画面が、真っ黒だった。
ゴンゾウ「おい、聞こえるか! 俺の顔は見えているか!」
アコム「声は聞こえます。でも画面が真っ黒で……」
ゴンゾウ「真っ黒? 俺にはお前らの顔が見えているぞ」
春日「カメラがオフになってると思います。画面下のカメラのアイコンを……」
ゴンゾウ「アイコン? どれだ、アイコンが多すぎてわからん」
三分間の格闘の末、カメラがオンになった。ゴンゾウの顔が、画面に現れた。
背景は——会社の応接室だった。
アコム「……部長、テレワークなのに会社にいるんですか」
ゴンゾウ「家のパソコンでZoomが動かなかった。だから会社に来た」
春日「……それテレワークじゃないっすよね」
ゴンゾウ「Zoomは使っているから半分テレワークだ」
春日「……(定義が独自すぎる)」
アコムが話を進めようとした、そのとき。ゴンゾウの背景が、突然変わった。
宇宙になった。
アコム「……部長、背景が宇宙に」
ゴンゾウ「なに? 宇宙? どうすれば直る」
春日「バーチャル背景が設定されてます。設定から……」
ゴンゾウ「設定はどこだ」
また五分経った。宇宙は消えた。今度はゴンゾウが、ビーチにいた。
春日「今度はビーチっすね」
ゴンゾウ「うるさい、操作しているところだ」
ビーチが、森になった。森が、夜景になった。夜景が、また宇宙になった。
アコムは画面を見つめながら、ゴンゾウが全バーチャル背景を制覇していく旅に付き合った。
一方、春日くんの背景は——淡いピンクのライトに包まれた部屋に、推しのポスターが整然と並んでいた。
ゴンゾウ「……春日、お前の部屋はなんだあれは」
春日「部屋です」
ゴンゾウ「ポスターがたくさん貼ってあるが」
春日「推しです」
ゴンゾウ「……仕事中に推しに見られながら働くのか」
春日「モチベが上がります」
ゴンゾウ「……そうか」
ゴンゾウは、なぜか納得していた。聖子ちゃんのポスターを貼っていた若い頃の自分を、思い出したのかもしれない。
ようやく会議が始まったのは、予定から二十分後だった。
アコムの背景は、無地のベージュだった。生活感を一切排除した、完璧なテレワーク背景だった。
誰にも何も言われなかった。誰にも気づかれなかった。
アコムは、それが少しだけ悲しかった。
アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」
※その後ゴンゾウは背景を「富士山」に固定した。理由は「日本人はこれでいい」とのことだった。春日くんは「エモいっすね」と言った。ゴンゾウは「エモい」の意味を調べるためChatGPTに聞いた。
── 第十話 了 ──
