三世代カオス株式会社 第七話
2026年07月07日
三世代カオス株式会社
第七話「ほうれんそうの呪い」
火曜日の朝。ゴンゾウが腕を組んで仁王立ちしていた。
それだけで営業部の空気が重くなった。
ゴンゾウ「春日、昨日の田辺さんの物件案内、どうなった」
春日「Slackに報告上げておきました」
ゴンゾウ「……スラック?」
春日「社内チャットツールです。営業部のチャンネルに投稿しました」
ゴンゾウ「俺はそんなもの見ない。口で言え」
春日「口で言うと記録が残らないじゃないですか」
ゴンゾウ「記録より気持ちだ!」
春日「気持ちより記録のほうが後で役に立ちます」
アコムが静かに立ち上がった。毎度おなじみ、通訳タイムの始まりだった。
アコム「春日くん、重要な案件はSlackに上げつつ、部長には口頭でも一言添えるようにしよう。部長、Slackは記録と共有に使うツールなので、今後は覗いてみてください」
ゴンゾウ「覗くって……俺がそのスラックとやらを使えると思うか」
アコム「……やってみましょう」
アコムはゴンゾウのパソコンにSlackをインストールした。所要時間、三十分。
なぜなら途中で「パスワードとは何か」という哲学的な問いが挟まったからだ。
ようやくSlackが開いた。ゴンゾウが画面を眺めた。
ゴンゾウ「……なんか、チャンネルってのがたくさんあるな」
アコム「営業部のチャンネルはここです」
ゴンゾウ「春日の報告はどれだ」
アコム「これです」
ゴンゾウ「……ちゃんと書いてあるな。田辺さんの反応、内覧前向き、次回アポ済み……これで十分じゃないか」
春日「そう言ってるじゃないですか」
ゴンゾウ「ただ……絵文字がついてるのはなんだ。『👍』って」
春日「了解の意味です」
ゴンゾウ「了解なら『了解しました』と書け」
春日「それ、通知がうるさくなるんで……」
ゴンゾウ「通知?」
説明が、また始まった。
アコムは静かに自分のデスクに戻り、コーヒーを一口飲んだ。
午前中が、また溶けていく。
そのとき、ゴンゾウが突然大きな声を上げた。
ゴンゾウ「アコム! スラックに変なものが届いたぞ!」
アコム「何ですか」
ゴンゾウ「『ゴンゾウさんがチャンネルに参加しました』って出てる。誰だこれを書いたのは」
アコム「……システムの自動メッセージです」
ゴンゾウ「機械が勝手に俺の名前を書いたのか」
アコム「そうです」
ゴンゾウ「……許せん」
春日「何がですか」
ゴンゾウ「断りもなく俺の名前を使うな、ということだ」
春日くんが、アコムを見た。
アコムが、春日くんを見た。
二人の間に、無言の連帯が生まれた。
それは、異なる世代がはじめて同じ方向を向いた瞬間だった。
方向は——ゴンゾウへの、静かな同情だった。
アコムは深呼吸した。
アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」
※その後ゴンゾウは「スラックの機械」に向けて「今後は断ってから使え」とメッセージを送ろうとした。アコムが全力で止めた。
── 第七話 了 ──
