三世代カオス株式会社 第六話

2026年06月30日

三世代カオス株式会社

第六話「ゴンゾウ、ChatGPTを知る」

 

それは月曜日の朝、何気ない一言から始まった。

春日くんが、颯爽とノートパソコンを開きながら言った。

春日「今月の物件紹介文、ChatGPTに叩き台作ってもらったんで確認してもらえますか」

アコムは「ああ、来た」と思った。

ゴンゾウが顔を上げた。

ゴンゾウ「……チャット、ジーピーティー?」

春日「AIです。文章とか考えてくれる」

ゴンゾウ「AIって……ロボットか?」

春日「ロボットじゃないっすけど、まあ……会話できるAIです」

ゴンゾウ「機械が文章を書くのか。それを人様に出すのか」

春日「叩き台なんで、そこから直しますよ」

ゴンゾウ「文章は心で書くもんだ。機械に魂はない」

春日くんが、すっとパソコンをゴンゾウの前に差し出した。

春日「読んでみてください」

ゴンゾウは、老眼鏡をかけて画面を見た。

しばらく、黙って読んだ。

もう少し、読んだ。

……さらに読んだ。

ゴンゾウ「……悪くないな」

春日「でしょ」

ゴンゾウ「ただ、ここの『陽光あふれる』ってのは大げさだ。実際の物件は北向きだろ」

春日「そこは直します」

ゴンゾウ「あと『洗練された空間』って……築38年だぞ」

春日「レトロモダンって言い換えれば……」

ゴンゾウ「そこは『昭和の風情を残す』と書け。本当のことを書け」

春日くんが、すばやくメモを取った。

アコムはその様子を見守りながら、じわじわと感動していた。

ゴンゾウが、もう一度画面を眺めた。そして、おもむろに言った。

ゴンゾウ「……俺も使えるか、これ」

春日「使えますよ。スマホでもパソコンでも」

ゴンゾウ「やってみるか……」

春日くんがゴンゾウのパソコンでChatGPTを開いた。

ゴンゾウが、人差し指一本でゆっくりとタイピングし始めた。

アコムが横から覗き込んだ。

画面には、こう入力されていた。

ゴンゾウ「『わたしは鈴木ゴンゾウです。よろしくおねがいします。あなたのなまえはなんですか』」

春日くんが、口を開けたまま固まった。

AIが、丁寧に返答した。

ChatGPT「はじめまして、鈴木ゴンゾウさん。私はChatGPTです。OpenAIが開発したAIアシスタントです。何かお手伝いできることはありますか?」

ゴンゾウの目が、輝いた。

ゴンゾウ「返事が来た! 礼儀正しいな! 春日より敬語が丁寧だ!」

春日「……(AIと比べられた)」

ゴンゾウは再び、人差し指一本で打ち込んだ。

ゴンゾウ「『不動産の物件紹介文を書いてください。築38年、北向き、昭和の風情があります』」

ChatGPT「昭和の面影を色濃く残す、味わい深い一室。築38年の歴史が刻む趣ある空間は、どこか懐かしく、心をほっとさせてくれます——」

ゴンゾウ「……これだ。これが書きたかったやつだ」

ゴンゾウの目が、じんわりと潤んだ。

六十年生きてきて、自分の言いたいことを一瞬で代弁してくれたのは、初めてだった。

春日くんが、珍しく素直な顔で言った。

春日「部長の指示の出し方、うまいっすね。『昭和の風情』って入れたのが効いたんだと思います」

ゴンゾウ「そうか……経験ってのは、役に立つもんだな」

春日「立ちます」

その日の午後、ゴンゾウはひとりでChatGPTに向かい、せっせと話しかけていた。

アコムが横を通ると、画面にはこう書かれていた。

ゴンゾウ「『最近の若者はなぜ飲み会に来ないのか教えてください』」

アコムは、そっと画面から目を逸らした。

これはこれで、長い戦いの始まりだと思った。

でも——少しだけ、希望があった。

昭和も、令和も、ちゃんと歩み寄れる気がした。

ミレニアルのアコムは、その橋の上に静かに立っていた。

相変わらず、挟まれながら。

アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」

※翌週、ゴンゾウ部長はChatGPTに「春日への声のかけ方」を相談し始めた。ChatGPTは毎回丁寧に答えた。春日より敬語が丁寧なので、ゴンゾウはすっかり気に入っている。

── 第六話 了 ──

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