三世代カオス株式会社 第四話

2026年06月16日

三世代カオス株式会社

第四話「敬語がわからない」

 

朝礼が終わった直後のことだった。

春日くんが、ゴンゾウ部長に報告書を持ってきた。

春日「部長、先週の物件案内の報告書っす」

ゴンゾウが受け取った。一拍おいて、顔を上げた。

ゴンゾウ「……『っす』?」

春日「はい、っす」

ゴンゾウ「いや、だから『っす』って何だ。『です』だろ、普通は」

春日「『っす』は『です』の省略形っす。意味は同じっす」

ゴンゾウ「意味が同じでも礼儀が違う!」

春日「礼儀って何を根拠に……」

アコムが素早く割り込んだ。

アコム「春日くん、上司への報告は『〜です』『〜ます』で統一しよう。社内ルールだから」

春日「社内ルールって明文化されてますか? 就業規則のどこに書いてあるか教えてほしいっす」

アコム「……書いてはいないけど、空気で分かる話で……」

春日「また空気っすか。数値化できない概念ですね」

アコムは天を仰いだ。第二話でも聞いたセリフだった。

ゴンゾウがたたみかける。

ゴンゾウ「そもそもお前、お客さんにも『っす』って言うのか?」

春日「お客さんには『っす』は使いません。『っす』は親しみのある上下関係に使うカジュアル敬語っす」

ゴンゾウ「カジュアル敬語……?」

春日「Z世代ではわりと一般的な概念っす」

ゴンゾウ「Z世代……。アコム、Z世代って何だ」

アコム「……1990年代後半から2010年代生まれの世代のことです」

ゴンゾウ「じゃあ俺は何世代だ」

アコム「……団塊ジュニアです」

ゴンゾウ「団塊ジュニアはいい響きだな。俺はアルファベットじゃなくて漢字世代だ」

春日「……(それは関係なくないっすか)」

その後、アコムはゴンゾウに呼ばれて別室に連れて行かれた。

ゴンゾウ「アコム、正直に言え。俺って春日くんに嫌われてるか?」

アコム「……嫌いというより、部長のことを『絶滅危惧種』だと思ってる可能性はあります」

ゴンゾウ「絶滅危惧種……」

アコム「でも嫌いじゃないと思いますよ。ただ、部長のことを『謎の生き物』として観察してる感じが……」

ゴンゾウ「……俺は生き物か」

アコム「生き物です」

ゴンゾウはしばらく黙っていた。そして、ぽつりと言った。

ゴンゾウ「……俺も若い頃、上司に『最近の若者は』って言われてたな」

アコム「……そうですよね」

ゴンゾウ「で、俺は今、春日に同じことを言ってるわけか」

アコム「……言ってますね」

深い沈黙が流れた。

ゴンゾウが立ち上がり、営業フロアに戻った。春日くんのデスクに近づいた。

ゴンゾウ「春日」

春日「はい、っす」

ゴンゾウ「……お客さんへの応対さえしっかりしてれば、俺への『っす』はまあ……目をつぶる」

春日「……ありがとうございます」

春日くんが、珍しく「ございます」をつけた。

ゴンゾウが、背中を向けたまま少しだけ口角を上げた。

アコムはそれを見て、胸の中で小さくガッツポーズをした。

……が、すぐに思い出した。自分は今日、田村さんに電話を入れなければならない。LINE希望の田村さんに。

アコム「理不尽ナリー(´;ω;`)」

※翌日、田村さんから「突然のお電話、びっくりしました……」とLINEが届いた。アコムは既読をつけるのに三分かかった。

── 第四話 了 ──

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