第3話:巨漢とマッチョの南一番街ナイト
2026年05月12日
第3話:巨漢とマッチョの南一番街ナイト
太田市内の不動産屋「メディアフェイス」。 身長180cm、体重100kg。昭和生まれの規格外ボディを揺らしながら、俺、鈴木ゴンゾウは深くため息をついた。 「あぁ〜っ、せんぱぁぁい……また案内予定のお客さんにドタキャンされました……」 隣のデスクでがっくりと肩を落としているのは、後輩の武富士アコムだ。昭和64年生まれという絶妙な年代に生まれ、無駄に顔が良く、スーツの上からでもわかるほどの見事なマッチョ体型。仕事もできる完璧超人のはずなのだが、どうにも運がない。
「落ち込むなアコム。太田のからっ風は冷たいが、世間はもっと冷たいもんだ」 俺が巨体に似合わず繊細な手つきでコーヒーを啜っていると、カランコロンと店のドアが開いた。 「あの……物件を探しているんですけど」 現れたのは、都会から引っ越してきたばかりだという清楚な雰囲気の美女、サヤカだった。 「飯田町あたりで、2LDKのマンションを……」
アコムが爽やかな筋肉スマイル全開で立ち上がる。 「お任せください! お客様の素晴らしい新生活のために、僕がぴったりの優良物件をご紹介します!」 だが、サヤカの視線はアコムの隆起した大胸筋を完全にスルーし、俺のわがままな巨体に釘付けになっていた。
「まあ座れ。飯田町は駅近で便利だが、太田駅南口の『南一番街』という歓楽街があるから夜は少し賑やかだぞ。静かに暮らしたいなら、少しだけ外れた場所の方がいい。スバルの工場への通勤渋滞も避けられるルートを教えよう」 俺が太田の土地勘と気配りをフル稼働させたアドバイスをすると、サヤカの頬がぽっと赤く染まった。 「鈴木さんって、大きくて豪快なのに……すごく繊細で気配りができるんですね。素敵です……ポッ」 「……」 なぜだか昔から、俺は女にモテる。アコムのイケメンマッチョぶりを差し置いて、異常なまでにモテてしまうのだ。
「……先輩ばっかりズルい! なんで俺の筋肉スマイルが全く視界に入ってないんですか! こんなの絶対おかしい……理不尽ナリー!!」 アコムの魂の叫びが、店内に響き渡った。
夜。仕事終わりの俺たちは、太田最大の歓楽街「南一番街」にいた。バーやスナック、キャバクラが密集する、北関東有数の大人の街だ。 「今日は俺が奢ってやる。泣くなアコム」 連れてきたのは、飯田町にある居酒屋『かくれ道』だ。 昭和レトロなポスターが貼られたノスタルジックな店内には個室が並んでおり、「あずましく(落ち着いて)」過ごせる俺の行きつけだ。
「どう考えても俺の方がシュッとしてるのに……」 アコムがジョッキのビールを一気飲みし、まだ昼間の一件を引きずっている。俺は備長炭で焼かれた名物の「炭火焼き鳥」を巨体で上品に頬張りながら、後輩の愚痴を聞いてやった。 「いいかアコム。モテようとしてモテるんじゃない。太田の街と同じで、ありのままの包容力に人は惹かれるんだ」 「……かっこいいこと言ってるけど、先輩ただデカいだけじゃないですか!」
腹も満たされ、南一番街のネオンがさらに俺たちを誘う。 「よし、2軒目行くぞ!」 向かったのは、最近オープンしたばかりのスナック『A(エース)』だ。元No.1キャバ嬢の華やかな綾ママがいる、今話題の店である。 扉を開けると、抜群に清潔感のある店内にいた10代から30代の個性豊かなキャストたちが一斉に振り向いた。
「いらっしゃい、ゴンゾウさん! 相変わらず大きくて包容力があるわね!」 綾ママが特別な笑顔で出迎えてくれる。 アコムは早速、若い女の子たちに囲まれ「えー、胸筋すごーい! 触っていい?」とチヤホヤされ始め、さっきまでの愚痴はどこへやら、完全に鼻の下を伸ばしている。 「先輩! ここ最高っすね! 毎日来たいっす!」
アコムがご機嫌になったのを確認し、俺はカウンターにどっかりと座り、綾ママとグラスを合わせた。 「南一番街も、昔からだいぶ変わったよな。俺が若い頃とは違う街みたいだ」 「ゴンゾウさんって、見かけによらず繊細でロマンチストなんだから」 綾ママがクスリと笑う。俺はウイスキーを傾けながら、太田の夜の奥深さを噛み締めていた。 アコムの歓喜の笑い声が、太田の夜空に心地よく溶けていった。
