​―ゴンゾウ、プリクラを理解しようとする

2026年04月21日

 鈴木ゴンゾウは、
写真とは記録だと思っていた。

 その瞬間を、
そのまま残すもの。

 だから、
盛る必要はない。

 その認識が、
この日崩れた。

「ゴンゾウさん、
 プリクラ撮りましょう!」

 後輩のミナが言った。

「……何だそれは」

「写真です!」

「ならいい」

「いや違います!」

 違うらしい。

 ゲームセンターの奥。

 カーテンで仕切られた箱。

「……ここで撮るのか」

「はい!」

 中は、
妙に明るかった。

 椅子。
 カメラ。
 画面。

 そして、
異様なテンションの案内音声。

『ハイ、ポーズ〜♡』

「……誰だ」

「気にしないでください」

 撮影開始。

「ゴンゾウさん、
 もっと近く!」

「……これ以上は無理だ」

「笑ってください!」

「……なぜだ」

「いいから!」

 カシャ。

 撮られた。

(……早い)

 確認する間もなく、
次の指示。

『次はカワイイポーズ〜♡』

「……断る」

「ダメです!」

 腕を引かれる。

 ポーズを取らされる。

 カシャ。

(……何だこれは)

 撮影終了。

「次、落書きです!」

「……落書き?」

 画面に、
さっきの写真が映る。

 ゴンゾウは止まった。

「……誰だ」

「ゴンゾウさんです」

「違う」

 目が大きい。

 肌が白い。

 シワがない。

 輪郭が細い。

 別人だった。

「……これは記録ではない」

「加工です!」

「……なぜだ」

「その方が可愛いからです!」

 ゴンゾウは考えた。

 写真とは、
事実ではなかったのか。

 ミナがペンを持つ。

「ここにハート描いて〜」

「……必要か」

「必要です!」

 目の横にハート。

 頭の上に星。

 文字。

『今日も最高♡』

「……最高ではない」

「気分です!」

 気分らしい。

 完成。

 小さなシールが出てくる。

「はい!」

 ゴンゾウは受け取った。

 そこには、
見知らぬ男が笑っていた。

「……これは俺か」

「はい!」

「……そうか」

 納得はしていない。

 帰り道。

 ゴンゾウは考えた。

 昔の写真は、
“残すもの”だった。

 今の写真は、
“作るもの”らしい。

「……逆だな」

 だが、
一つだけ分かった。

 ミナは、
楽しそうだった。

「どうでした?」

「……理解はしていない」

「ですよね!」

「だが」

 ゴンゾウは言った。

「……悪くはない」

 それが結論だった。

 家に帰る。

 机にプリクラを置く。

 しばらく見る。

「……別人だな」

 だが、
捨てなかった。

 理由は分からない。

 ただ、
残しておいてもいい気がした。

 それは、
記録ではない。

 だが、
その日の感情は残っている。

「……そういうものか」

 ゴンゾウは電気を消した。

 部屋の中で、
小さなシールだけが
少しだけ光っていた。

(了)

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