『鈴木ゴンゾウの日常』

2026年03月24日

『鈴木ゴンゾウの日常』

――ゴンゾウ、コンビニコーヒーを理解しようとする

 鈴木ゴンゾウは、
コーヒーは店で飲むものだと思っていた。

 座って、
出されて、
静かに飲む。

 それがコーヒーだ。

 ある日の朝、
コンビニに寄ったときのことだ。

「コーヒーいかがですか?」

 レジの横に、
機械があった。

「……これは何だ」

「コンビニコーヒーです」

「……自分でやるのか」

「はい」

 ゴンゾウは少し考えた。

 コーヒーは、
誰かが淹れるものだ。

 自分でやるなら、
それはもう家だ。

「……効率はいいな」

 その言葉で、
ゴンゾウは負けた。

 カップを渡される。

 Sサイズ。

 機械の前に立つ。

 ボタンがある。

「……どれだ」

 ホット。
 アイス。
 サイズ。
 濃さ。

(……選択肢が多い)

 ゴンゾウは慎重に選んだ。

「……ホット」

 ボタンを押す。

 ガコン、と音がする。

 コーヒーが落ちてくる。

 その様子を、
ゴンゾウはじっと見た。

(……これは)

 ドリップだ。

 だが、
速い。

 あまりにも速い。

 完成。

 カップを持つ。

 熱い。

 だが、
悪くない。

 一口。

「……うまい」

 正直だった。

 だが、
問題はそこではない。

(……誰が淹れた)

 機械だ。

 人ではない。

 だが、
味は成立している。

 ゴンゾウは、
少し混乱した。

 会社に着くと、
アコムがコーヒーを持っていた。

「ゴンゾウさんもですか」

「……これだ」

「いいですよね」

「……うまい」

 それは認める。

 だが、
納得はしていない。

「ゴンゾウさん、
 何が気になるんですか」

「……工程だ」

「工程?」

「コーヒーは、
 人が淹れるものだ」

 アコムは笑った。

「今は機械ですよ」

「……機械は、
 責任を取るのか」

「え?」

 ゴンゾウは真剣だった。

 味が悪ければ、
店員に言う。
 それが普通だ。

 だが、
この機械はどうだ。

「……誰の責任だ」

「いや……
 コンビニです」

「……曖昧だな」

 その日の昼、
ゴンゾウはもう一度買った。

 今度は、
少し観察した。

 豆。
 抽出。
 時間。

 すべてが、
短い。

(……効率化されている)

 それは分かる。

 だが、
何かが足りない。

 帰り道、
ゴンゾウはいつもの喫茶店に寄った。

「いつものか」

「……頼む」

 マスターが、
ゆっくりコーヒーを淹れる。

 時間がかかる。

 だが、
香りが違う。

 一口。

「……これだ」

 ゴンゾウは納得した。

 だが同時に、
もう一つの事実にも気づいた。

 朝のコーヒーも、
悪くなかった。

「……違うだけか」

 優劣ではない。

 用途だ。

 朝は効率。
 夜は時間。

 それだけだ。

 翌日、
ゴンゾウは迷わず
コンビニコーヒーを買った。

「ホットで」

 操作も、
スムーズだった。

 ボタンを押す。

 コーヒーが落ちる。

 それを見ながら、
小さくうなずく。

「……悪くない」

 だが、
夜は喫茶店に行く。

 それも、
変わらない。

 ゴンゾウは理解した。

 現代は、
便利になった。

 だが、
昔のものが
不要になったわけではない。

「……両方でいい」

 それが、
一番しっくりきた。

 コーヒーを飲みながら、
ゴンゾウは思った。

 理解とは、
否定ではない。

 ただ、
使い分けることだ。

(了)

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